えみうま1
えみうま2
「王子…よくお似合いでございまする」
「…うむ、そうか」
毛人のすらりと伸びた指先が、厩戸の髪飾りをちょいちょいっと直す。
たったそれだけのことなのに…。
厩戸は心の内まで毛人に弄られるような、妙な感覚に囚われた。
自尊心の高い厩戸は、髪を触れられることに、嫌悪を感じていた。
しかし毛人が触れるとどうだろう。
まるで、澄み渡った空に心地よい風が吹き抜けるよう。
毛人に触れられると、(私がそれまでの私ではいられなくなってしまう…)
美辞麗句を並べた高くそびえる壁が崩れ落ち、たった一人では生きられないちっぽけな存在になってしまう。

(哀れな…)

それでも厩戸は、自分に降り懸かる怠慢に流されて、自然と歩を進めるよう毛人に倒れかけた。
すると、毛人はあたかも当然のように厩戸を抱き抱えてくれる。
厩戸は毛人のそんな温かさに、そっと寄り添った。

「王子には、白が似合いまする」
毛人は厩戸の髪飾りを見、しみじみと言った。
「そうか?皆は茜など紺碧など口々にどぎつい色を指すぞ」
「いいえ、白でございます」
そう言いながら毛人の手は、もう一度厩戸の髪飾りに添えられる。
表面に出さずとも、厩戸はどきりとした。
「王子は誰よりも純粋で、無垢な御方…そうまるで、万物を照らす光のよう」
毛人は眩そうに目を細めてみせた。
その仕草が厩戸にはなかなか理解できない。
「光…私がか?
 闇夜に潜む邪神の間違いではないのか?」
毛人はゆっくりと頭を横に振った。
「いいえ…、貴方様はいつも私を照らしてくださいます」
「何を戯けたことを…」
厩戸はきゅっと毛人の袖口を掴み、毛人の胸に顔を埋めた。

(違う…!いつも私を照らしてくれるのは…)

「お寒いのですか、王子…?
 お身体がこんなに震えて…」
厩戸の身体が小刻みに震える。
しかしそれは外気に触れたせいではない。
初めて得た人の温もりと、それを決して失いたくないと逸る感情が、押し寄せる波のように厩戸を震わせていた。

(恐ろしい…!私が私ではなくなってしまう…!)

毛人の温かな手が厩戸をぎゅっと抱き寄せた。

(しかしそれでも私は…逆らえないのだ)

厩戸は毛人の顔を見上げた。
「あ…すみませぬ!つ…つい王子がお寒いかと…!」
厩戸に触れていた手を毛人は、ぱっと放した。
厩戸の心がちくりと痛む。

(もう少し触れていてもよかったのに…)

毛人は一人、手足をばたつかせている。
「ははは…そなた一人で赤くなったり、青くなったり…わからぬ男だ」
「これは…お見苦しいところを」
厩戸に窘められて、毛人はいよいよ塞ぎ込んでしまった。
少し言い過ぎたか…。
厩戸は毛人の肩にそっと手を置いた。

『いつもこうだ。
 王子の前だと、いつも私らしからぬ私になってしまう』

毛人に触れた指の先から、毛人の心が流れてくる。
結局は同じなのだ。
見目形、育った環境、紡ぐ言葉、そのどれもが違おうとも、人間が思うことはすべて…。
毛人の肩に置いた指でとんとんと毛人をつつくと、毛人がはっとして振り返る。
「よい、よいのだ、毛人
…お前はそれで」
厩戸は仏にも似た面持ちで、ゆっくりと微笑んだ。






文:アキヨシ  絵:凪  背景写真:境界線シンドローム

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絵になんか文章つけて!というぶしつけなお願いに、素敵なえみうまが出来上がりましたv
ありがとう!
で、ほんとうはこういうのも上の絵にくっついていたのですが、思った以上に話がシリアスに
なったので、いらないんじゃないか、と(笑)



最初に私の載せようと思ってたセリフが

「王子、ちょっとじっとしててくださいね」
「ん」
「よし、これで…」
「毛人…」
「はい?」
「…ん、いや…」(お尻…触ってる…まぁ、よい…)

というような、とっても ア レ な感じでした !



20071110