五巻  信幸と角兵衛


「角兵衛よ」
と、沼田城内の居館の一間へ樋口角兵衛をよび寄せた真田信幸が、
「上田で、何を仕出かしたのじゃ?」
「いえ、別だん、何もいたしたわけではありませぬ」
「父上に、追いはらわれたのではないのか、どうじゃ?」
「それがしが、大殿に願い出たのでござる」
「わしの許にまいりたいとか?」
「いかにも」
「何故じゃ?」
「上田に居たとて、芽が出ませぬ」
信幸が可笑しげに、
「さほどに、芽を出したいか?」
「出しとうござる。角兵衛がはたらきを、大殿はみとめてくれませぬ」
「ふうむ…」
「それに、それに…」
「何じゃ?」
「間もなく。源二郎様が…」
「今は源二郎ではない。左衛門佐じゃ」
「はい、さよう」
「左衛門佐がどうした?」
「間もなく、上田へもどられます」
「そのようじゃな」
「さすれば、いよいよもって、芽が出ませぬ」
「ほう……それはまた、何故か?」
「左衛門佐様は、それがしを憎んでおわしますゆえ」
「憎んでいるのは、おぬしのほうであろう。どうじゃ?」
「う、うう……」
唸り声をあげ、顔面を紅潮させた樋口角兵衛が、
「そのとおりでござる」
いいきったものである。
「あは、はは……」
信幸が大笑いし、
「ま、よいわ。沼田におれ」
「はいっ」
「今日よりは、わしが主じゃ。そのつもりでおれ」
「源三兄上……いや、殿の御為とあらば角兵衛、身命を賭して御奉公つかまつる」
「おお、たのむ」
「うれしゅうござる。これにて、ようやく胸の内が落ち着きまいてござる」


このときの角兵衛はまぁまだいいわ(笑)
このあと六巻あたまはむかつくけど(やっぱり)
こんななりで信幸より5歳くらい下なんだもんなー

そういえば角兵衛って『信幸の言うことはきくけど幸村を嫌ってる』という 状態が昔一度逆転したことがあったけど、いつのまにか、やはり幸村を嫌ってるようになってますね、これ。

ここでの私の(どうでもいい)胸キュンポイントは信幸の大笑いです