六巻 幸村と佐助 |
躰つきは佐平次より一まわりほど小柄なのだが、顔立ちも似ているし、何よりも、 「声音が父そのままだ」 と、真田幸村が、 「あらそわれぬものよ。その声なれば闇の中にても、わしにはそれとわかる」 なつかしげに、うれしげにいったものだ。 「佐助。何としたぞ?」 歩みをとめぬままに、幸村が問うた。 佐助は、幸村の背中へ吸いつくようなかたちで従いながら、 「又五郎様が、明日、こちらへまいるとのことでござります」 ----------- 「どうじゃ、父や母の顔を見たくはないか、うむ?」 笑いをふくんだ幸村の問いかけに、佐助はかぶりを振り、 「では、これにて…」 すっと、幸村の背後から離れていった。 幸村が振り向いたときには、佐助の姿が完全に闇の中へ溶け込んでいる。 「少年(こども)とも、おもえぬやつ…」 |