七巻  国分寺にて、昌幸と信幸との交渉


一方上田城へ引きあげて来た真田昌幸を迎えた左衛門佐幸村が、
「いかがでありましたか?」
「おぬしも共に来ればよかったのじゃ」
「いや、国分寺で、兄上と敵味方に別れて顔を合わすのも、よい心もちではありませぬゆえ」
「うふ、ふふ……」
「いかがなされまいた?」
「見せたかったわえ」
「何をで……?」
「伊豆守の顔をな」
「どのような……?」
「困りきっておったが、感心に口をさしはさまなんだわ」
「こなたの申し出でを、徳川の使者は受け入れまいたか?」
「尻の青い若僧がのう」
「忠政殿……」
「いかにも」
うなずいた昌幸が、さも満足げに幸村を見やって、
「左衛門佐が若きころと引きくらべてみれば、大ちがいじゃ。わしは、よい伜どのをもったわえ」