七巻  伊勢山城


この四日の夜。
すでに、真田左衛門佐幸村は七百余の兵をひきい、伊勢山の城へ入っていた。

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いよいよ、信幸が、弟の幸村と戦う日が来た。
伊勢山城の櫓の上から、左衛門佐幸村は兄の部隊が段丘を越えて、こなたへ進んでくるのを見ている。
すでに、
「沼田勢が押してまいりまする」
との知らせが、草の者によって幸村の耳へとどいていた。
「やはりのう……」
幸村は仕方もなさそうに笑い出した。
「兄上が先陣か……さもあろう」



兄の部隊は、下の平地を伊勢山へすすむ。
真田信幸は、弟がひきいる部隊の、六文銭の旗じるしが東太郎山の山腹を悠々と移動していくのを馬上から見あげ、唇をかみしめた。
信幸の旗じるしも、当然のことながら六文銭である。
(左衛門佐め……)
さすがの信幸も、弟の伊勢山撤退は、
(意外のこと……)
であった。

「兄上は、徳川方の一将にすぎぬゆえ、まさかに、先陣を断るわけにもまいりますまい。さぞ、辛いおもいをなされたろう。よろしゅうござる。では、源二郎が引きあげてさしあげましょう」
山腹から、こなたを見下ろしながら、幸村はそういっている……ようにおもえてならぬ。






被害妄想(笑)