その日も(というかいつも)相変わらず狂と幸村はイチャイチャラブラブだった。 「狂さ〜〜〜んvvウフフ〜〜〜vv」 「…幸村(v)」 ベッタベタである。 もう夜もとっぷり更けて、ラブモードも急上昇な二人。 このままあと一刻もすれば、とろ〜りと甘くて深い大人の濃密な時間が待ち受けているはず……。 なのだが、この日はちょっと事情が違っていた。 幸村は、ある決心を固めていたのである。 ここ数日、ずっと狂は幸村を……幸村の体を愛しまくっている。 イヤ、もちろん狂は幸村の心も何もかも全てを愛している。 出来る事ならその優しい心もお茶目な性格も、可愛い笑顔や鈴を転がすような笑い声、 仕草も過去も未来ももう血やら内蔵やらだって愛しいから、抱きしめて 愛したいくらいなのだ。 しかし残念ながら、実際に触れて愛しちゃえるのはその体だけなのだから仕方がない。 体を弄くってやれば、声や匂いやら幸村の一部分は一緒に愛することができるのだし 体を愛するというのは、狂にとって幸村の全てを愛しているのと同じことなのだ。 逆に、全てを抱けないから、その分夢中で体を愛してしまうのかもしれない。 しかし、愛しまくられちゃっている幸村は、当然もう眠気と体力の限界だった。 これでは、突然敵が来襲しても応戦できないと、真剣に憂いているのである。 腰に力が入らなくて、刀もろくに構えられないかもしれないほどなのだ。 そこでこの日は、朝から狂に釘を差しておいたのである。 約束させたのだ。 「今日は一日、ボクの体を休ませてもらうよ!」 狂だって朝起きたばかりでそんな事を言われれば、一晩くらい我慢できる馬鹿にするな、と思う。 実はまだ、昨晩愛しちゃった満足感や気持ち良さが残っているし、 幸村に一滴残らず搾り取られちゃっているのでそんな気もおきないのだが。 幸村の言うことももっともだし、たまには休め、ただ抱きしめて髪でも梳いていてやるから、と軽く考え承諾してしまった。 しかしこうして夜にもなってくると、体のあちこち隅々まで回復してくる。 なんたって鬼なのだから、半端な回復力ではない。 しかも先程から、いつものように酒を酌み交わしていて、しどけない空気が流れ始めている。 幸村も今日は安心とすっかり気を緩めてしまっているのか、態度まで早々にしどけない。 甘い声で狂を呼んで、体をしならせてくるのは止めてほしい。 「はい、狂さんvv」 「…堪まんねぇ」 酌する幸村の姿がいつもの色気三割増に見えて、いつの間にかムラムラしている自分に狂は気付く。 今晩は抱けないのだ、と思うと余計にイライラと焦れったく我慢ならなくなるのは何故だろう。 しかし狂にだって意地がある。 もちろん幸村への優しさももっとある。 先程から我慢我慢しているのだ。 そんなこんなでいつにも増して陽気にはしゃぎ、酒を流し込む時間が長くなった分、 色気もパワーアップされた幸村と、ひたすらその分理性と闘う狂という、 全くそんな雰囲気はないが実は一触即発な二人ができ上がった。

しかし、とうとうその時は起きる。 狂は心も体もギンギンで復調率120%だ。 いつもより力が漲っている。 それにもうこれだけ耐えたのだからいいだろうと思う。 「…幸村」 とびきり甘い声で呼んでやる。 幸村もいつもの通り、この胸にとびこんでくれるはず。 ん?と顔をあげた幸村の顔もうっとりとこの時を待ち望んでいたように見える。 そう、幸村だって朝あんな事を言ってはみたものの、今ではきっと熱い抱擁を求めているはずなのだ。 こちら側を向いた幸村の顎に手をかけ、そっと顔を近付ける。 バッチーン! 「ダメ!」 「…もう零時過ぎたじゃねえか!!」 「今日はゆっくり寝かせて!朝まで絶対にダメったらダメーー!」 とにかく一晩我慢しろと言うのだ。 幸村は本当にくたくたで、いつもの疲れが酔いと相俟ってふわふわととっても気持ちがよくて、 このまま布団に倒れ込んで狂の温かくて広い胸でぐっすり眠りたかった。 そしてそれを叶えてくれるという狂の今朝の約束に、穏やかな眠りを夢見て胸ときめかせて待ち望んでいたのである。 これをぶち壊されては堪らない。 しかし、一度火の点いた鬼が、これで大人しくなるわけがないのだ。 今度は幸村の肩をわしっと両手で掴み、狂はそのまま押し倒す。 「…え」 「幸村」 「えぇ」 ダメだ!本当に今日はゆっくりぐっすり眠りたいのに…! 本当に発動しなければならないのか…アレを…! 幸村は不安で泣きたくなってしまうが、自分のために決心をするしかない。 このままでは二人とも侍として、とんでもない末路を辿ってしまいかねない。 「やだ!狂さん!やめて!」 「…幸村」 もう狂の声は掠れて熱を帯びているのがはっきりと分かる。 上から見下ろす幸村の怯えた顔は堪らなくそそったらしい。 ぐぐぐっと狂は顔を寄せる。 「…っ今晩ボクに手を出したら、もうエッチできなくなるかもしれないんだよ!」 「何言ってやがる」 「一日だけ我慢して…!お願いだから」 「ちょっと黙れ」 「本当にいいんだね!エッチできなくなるんだよ!」 「んなわけあるか」 そして狂の唇は、ついに、幸村に触れてしまったのだ。 「…あ」 ―――ぼわわん! 立ち昇る白煙。 なぜか微かに漂うミルク臭。 「…けほっごほっ!おい幸村!大丈夫か!!」 「…んんー」 「幸村!!」 敵か!?と突然の事に狂も思わず臨戦態勢をとり、幸村を呼ぶ。 「ゆきむっ…」 「きょーたんvvv」 そして視界が明けた時、幸村が居たはずの場所にはなんと、三歳児くらいのまんまミニチュア幸村が 狂に向かって手を差し伸べているではないか。 「……」 「んーだっこちてー!きょーたんっ」 たどたどしい喋りと、ただでさえ可愛い幸村が目もくりくりにチビになって、そのもみじのような可憐な手を 必死に伸ばして狂を求めてくる。 可愛いっちゃあ可愛いが、狂はしばし混乱に陥った。 「ゆ、ゆきむら?」 「ん〜〜きょーたーん」  □ □ □ 幸村はちょっとした秘術を身につけている。 真田秘術(忍術?)である。 そのあまりの愛らしさに、数々の漢の手から幸村の体(お尻?)を守るため、佐助が幸村に授けたのである。 ある意味、佐助の忘れ形見である。 「幸村様。漢に追い回されて、もうどうしようもない!もうダメだ!と思ったら、この呪文を唱えてください」 「なに佐助、どうしたの?」 当時、幸村は随分とおかしな事を佐助は言うものだと思った。 思えばこの後、数日後に佐助は身を消してしまったのだ。 自分がいなくなった後、言いよる漢共の魔の手から幸村の体(お尻?)を守るのはこれしかないと、思ったのだろう。 しかしなぜ三歳児――― 欲にまみれた汚れた漢共に対抗するには、幸村の純粋無垢な面を前面に押し出すのが一番だと思ったのか。 まるでいけない事を思ってしまえば、それだけで罪を感じるような存在…。 そんなオーラを十分にまとっている、まさに小さくなった幸村の姿だった。 幸村に知らせてしまえば絶対にこんな術は使わないだろうと、佐助は詳しくは教えなかった。 なので、幸村としたら絶体絶命の(お尻の)ピンチにしか使ってはいけないという佐助の必死の教えに、今まで使うこともなかった。 まさかこんな姿になろうとは思いもしなかったろう。 誰か十勇士が来てくれて、とかそんな事しか思わなかったか、もしかしたら佐助が助けに来てくれるかもしれないという淡い期待もあったかもしれない。 どっちにしろあまり使いたい状況でない術を教わっていたのだ。 とにかく幸村はチビになった。 絶対に汚せない存在として狂の目の前に現れた。 そしてこれから、奇妙でおかしなチビ幸騒動が始まるのである。






041204...あんこさんにお願いして書いていただきました。